保護者の入場規制、進学塾の応援自粛など、かつてない状況で実施されたコロナ禍の中学入試。
統一入試開始日の午前の受験生は17,079人で昨年より116人減少しました。1年前の大手進学塾の5年生の生徒数から、2021年入試は受験生が増加すると見られていたので、新型コロナウィルスの影響と考えられます。
経済的な影響というよりも、緊急事態宣言中とその後で生活のリズムが一変したことが原因ではないかと推測しています。小学校が再開されると同時に、進学塾でも対面指導が再開しました。いつもより少ない夏休みに加えて塾の夏期講習という過密日程での受験勉強に体力的にも精神的にも限界を感じ、中学受験を断念するといったケースです。
中学受験率(統一入試開始日の午前の受験者数÷近畿2府4県の小6児童数)は9.64%で昨年から横ばいとなり、6年間右肩あがりだった中学受験率は一旦足踏みとなりました。
受験者数が減少する一方で、総志願者数は62,045で昨年より362増加しています。これにより1人あたりの平均出願数が3.63(昨年は3.59)となりました。午後入試が定着するなか、人気校の午後入試への参入が増えたことが影響しています。
地域別で見ると、昨年まで増加傾向であった大阪と兵庫の受験生の減少が大きく、新型コロナウィルスの感染状況と重なります。
受験生の志望動向(特に第一志望校)は、新型コロナウィルスの影響は関係なく、近年の傾向が続いています。大学進学実績が良い難関進学校の人気は安定して高く、コロナ禍での受験勉強の大変さから安全志向となることはなく、多くの志願者が集まりました。またこの数年人気が右肩上がりの関関同立の付属校・系列校も不動の人気で、中でも同志社女子は大きく志願者数を伸ばし、入試が難化しました。
関西圏の中学入試において、新型コロナウィルスの影響と見られる特徴的な事例が3つあります。
一つ目は、他地域からの受験生の減少です。全国区の灘中の入試では112人減少しました。この多くが関東圏や九州からの受験生です。1月末や2月に入試を行う地域の受験生にとって最高峰の受験を本番前に体験できる機会として近年は増加傾向にありましたが、今年については移動することでの感染リスクを考えて、受験を回避する動きが目立ちました。
二つ目は、兵庫の受験生の併願日程(統一入試開始日の午前以外の入試)での受験校選択です。兵庫東部(主に阪神間)の受験生の本命校の多くは兵庫県内の学校になりますが、併願校の受験では大阪の学校を選択するケースが多くあります。ところが今年の併願日程では大阪の学校は減少傾向で、それに対して兵庫では増加した学校があることから、兵庫東部の受験生が併願日程で県内に留まったのではないかと推測しています。「ラッシュ時の長時間通学を避けたい」というコロナ禍ならではの動きです。
三つ目は、近年注目されていたグローバル教育校が苦戦したことです。新型コロナウィルスの影響で海外との往来が断絶されていることから、魅力ある「海外研修」や「留学」がこれから先も難しいと判断されたようです。実際には、オンラインを活用したプログラムを導入し、海外との交流の機会は増えています。また留学時期の延期など調整も行われていて、これから入学する生徒についての影響は少ないだけに、残念な結果です。
コロナ禍でも受験生が増えた学校がいくつかあります。兵庫の須磨学園がその代表的存在になるのですが、受験生が増えた要因が3つあります。
一つめは、注目すべき教育内容があってこの数年増加傾向であったこと。二つめは、コロナ休講期間中のオンライン授業等の対応が評価されていること。三つめは、緊急事態宣言解除後にオンラインに頼るだけでなく、学校説明会を対面で開催し、万全の感染予防対策を実際に見てもらうことで受験への安心感を高めたことです。特に二つめにあげたコロナ休講期間中の対応については保護者間での口コミで広がり、学校評価に大きく影響したようです。
2021年入試では受験生が減少した関西圏の中学入試ですが、首都圏では逆に受験生も中学受験率も上昇しています。首都圏の進学塾の生徒募集はこれまでにないくらい好調で、私学ブーム到来と言われています。保護者が中学受験バブル世代であり、私学への進学意識が高いということや、先行き不透明な大学入試改革に対して早くから動き出している私学への注目度が高まっていることで元々増加傾向にあるところに、休校期間中の公私間格差が話題となり一気にこの流れが加速しています
経済状況や新型コロナウィルスの影響などの違いはありますが、関西圏においても私学への関心の高まりの兆しを感じています。今年に入ってからの各進学塾でのイベントや私学の合同相談会への参加者が増加しており、今後この動きは全国的に広がると見ています。
2021年入試はコロナ禍での特別な入試となったため、次年度の入試ではその反動がでるかもしれません。併願校を含めた受験校選びにおいては、模試での志望動向にも注意が必要です。
学校選択の際にはこれまでの視点(校風・教育環境・アクセスなど)に加えて、私学の未来を見据えた学び(探究的な学び・ハイブリッド授業)にも注目してください。これからの社会や新しい大学入試を見すえた魅力ある独自の取組みへの期待が高まっています。
コロナ禍で、学校説明会やオープンキャンパスのあり方も変わってきています。オンライン型・対面型・併用型とあり、機会そのものは増加しています。ただし、対面型は人数制限の関係ですぐに締め切られる場合があるので注意が必要です。本命候補の学校選びにおいては、必ず学校に足を運んで受験生・保護者自身の目で確認してください。併願校についても同様ですが、候補を絞るところまではオンライン型もうまく活用しましょう。学校によってはホームページ上に様々な動画を掲載し、オンライン説明会並みの情報が得られる場合もあります。気になるところはチェックしておきましょう。
PROFILE | 森永直樹(もりなが・なおき) |
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日能研関西 取締役。教室長、進学情報室室長、教室統括部長などを経て2017年より現職。生徒への指導や保護者へのアドバイスを行うほか、私学教育、中学受験に関する講演などでも活躍。 |