保護者世代にとって、大学入試というと年明けの受験が当たり前のことだったのではないでしょうか。
ところが現在は違います。入試戦線は9月から始まるのです。これまでAO(アドミッションオフィス)入試と呼ばれていたものが、今年春に大学に入学した受験生から総合型選抜と呼ばれるようになり、9月から10月にかけて出願が始まるのです。合格発表は11月から12月にあります。また、推薦入試は学校推薦型選抜と呼ばれるようになりました。出願は11月からで、早いところでは12月から合格発表があります。
「とはいえ、推薦入試は学校の成績が優秀か、スポーツや音楽などでめざましい活躍をしている一部の生徒が受験しているものでしょ」と思っている保護者も多いことでしょう。
ここで下記の円グラフを見てください。AO入試が開始された2000年度と20年度で一般入試とAO・推薦入試の入学者比率を比較してみると、AO・推薦入試の入学者比率が高まっていることが分かります。20年度の設置者別の入試方式別の入学者比率を見てみると、AO入試で入学した学生は、国立大が4.2%、公立大3.3%、私立大12.1%となります。また、推薦入試では国立大12.4%、公立大25.3%、私立大44.4%となっています。つまり、私立大に通う学生の半数以上は、AO・推薦入試で入学していることが分かります。
文部科学省「国公私立大学入学者選抜実施状況の概要」などを基に筆者作成
実は、国立大も一般入試以外の枠を年々増やしており、定員の30%をこれらの入試で選抜するという方針が示されました。東北大や筑波大といった難関国立大でも、すでに定員の3割近くがこれらの入試による枠となっています。
一般入試以外の入試方式が増える傾向にあるのは、現在行われている大学入試改革とも関係があります。一般入試のように学力試験による点数だけで合否を判断するのではなく、多面的、総合的に受験生を評価することが求められるようになっているからです。そのため、名称も総合型、学校推薦型と分かりやすく改められました。
では、年明けに行う一般選抜との違いはどこにあるのでしょうか。総合型・学校推薦型では、調査書や面接、プレゼンテーション、グループディスカッション、小論文などさまざまな方法で選抜が行われます。そうすることで、思考力や表現力、文書力など総合的な力がどれだけあるかを判断し、合否が決まります。
総合型では出願時に受験生自身が作成する志望理由書などの書類が必要です。大学は、この書類を基にして学びへの意欲や目的意識を見ていきます。また、国公立大学では基礎学力を測るため、共通テストを併せて課すところも増えています。
学校推薦型には公募制と指定校制の二つがあります。公募制は各大学が示している学業成績などの出願条件をクリアし、通学している高校の校長による推薦書があれば出願できます。東大や京大も近年実施していますが、出願条件が厳しく、一つの高校からの推薦人数が制限されている場合もあります。
指定校制は大学が指定している高校に通う生徒が対象です。いわゆるスポーツ推薦や課外活動推薦なども含まれます。なお、合格した場合には、その大学に入学しなければならない専願制をとっているケースが多いので、注意が必要です。
ところで、先ほども指摘しましたが、現在、さまざまな形で入試改革が進められています。これまでの知識・技能偏重の教育から、思考力や判断力、表現力、さらに主体性や多様性、協働性をも含めた、いわゆる「学力の3要素」を問う教育への転換が進められ、それに基づいた改革が実施されています。知識や技能といったものだけでなく、学校内外での幅広い活動での学びを入試でも積極的に評価していこうという流れがあるのです。
そして、これは第四次産業革命とも言われる情報・通信技術の急速な発展で社会が複雑化する時代を迎えたこととも関係しています。自ら考え行動できる人材を育てていこうという世界的な潮流とも軌を一にしたものなのです。保護者世代の受験は、暗記力の勝負というような側面があったかもしれません。それが、変わりつつあると言えるのではないでしょうか。
すでに答えが決まっている問題にいち早く答えられる能力よりも、自ら問いを立てて解決していくことができる能力が求められるようになっているのです。そのために教育が変わり、入試も変わろうとしているのです。
PROFILE | 中根正義(なかね・まさよし) |
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千葉大学教育学部卒。1987年、毎日新聞社入社。週刊「サンデー毎日」編集次長(教育担当)、教育事業本部大学センター長などを経て、現在、教育事業室。サンデー毎日時代、同誌特別増刊「大学入試全記録」などの編集に携わった。現在、国立大や私立大の外部評価委員や非常勤講師なども務めている。 |