2021年入試は新型コロナウィルスの影響を受けましたが、近年は「戦後最大の教育改革(特に新大学入試制度)」が話題になり、中高での教育内容が見直されていく中で、対応の早さや6年一貫での優位性が注目され、私学志向が高まってきました。これはコロナの影響を受けている現在も変わりません。むしろコロナによる休校期間中のオンライン授業などでの私学の対応が評価され、さらにヒートアップしています。数年後の受験生はかなりの規模になる可能性が出てきています。
こうした新たな「私学ブーム」の兆しが見える中で、女子校も再び注目されています。中学受験率が9.00%近くまで落ち込んでいた時期はトップ校を含めた女子校全体が受験生の減少傾向にありましたが、徐々に回復し、トップ校は安定して多くの志願者が集まるようになりました。V字回復する学校や、年々志願者数を増加させるような学校も現れるようになり、今後の動向に注目しています。
関西圏の私立女子校の多くが魅力ある教育を行っています。ここで女子校ならではの魅力について、様々な角度から紹介いたします。
●女子校の魅力とは
近年の私学志向が高まっている要因の一つに、中学受験ブームだったころの受験生が保護者世代になっていることがあります。自身の経験から、わが子も私立中高一貫校へ進学させたいと考えているからです。女の子を持つ母親が女子校出身の場合は、わが子も女子校(できれば出身校)へと考えるケースが多いように感じます。祖母から3代続いて同じ学校というのは男子校より女子校のほうが多いとも聞きます。私のこれまでの受験相談での経験から、母親が「娘も女子校に入れたい」と考える理由は三つあるように思います。
一つ目は、「礼法や作法」など、しつけや生活指導をきちんとしてくれるところです。学校によって規律の厳しさに違いはありますが、女子だけの環境だからこそ身につけやすいところがあるようです。
中高時代に身に着けた礼法や作法が自分の一部となっており、ここぞという時に適切な振る舞いができるようになった保護者自身の経験からくるものです。生活指導においても意外なことに、「この制服にふさわしい着こなしをしなさい」という程度のルールしかない女子校も多くあります。逸脱している子を見つけたら、「それがこの制服にふさわしい髪形か、持ち物か、自分で考えなさい」というような指導で、最終的には生徒同士で「制服はきちんと着こなすのが一番美しい」という結論になり、自律していくようです。まさに女子校ならではの世界です。
二つ目は異性がいないことでのびのびと学校生活が送れるという点です。男子がいないことで女子の特徴が発揮しやすいシーンは礼儀や作法だけでなく、勉強面でもあります。何事にもコツコツ取り組むことができるのが女子の武器であり、その事を男子に茶化されることもなく続けていくことができます。
また女子に好まれるスモールステップ(一つずつ階段をのぼるように細かいステップを刻んでいくこと)での指導が実践されているため、女子校だからこそ伸ばしてもらえたと実感している出身者は多くいます。
三つ目は男子がいないので、共学なら自然と男子の役割とされてしまうようなこと(例えば力仕事)も女子がやることになるので、6年間での経験の幅が広がることです。女子校の文化祭や体育祭は、「横のつながり」を大切にした女子ならではのリーダーシップのもと、女子のもつ「共感力」と「集団力」が発揮され、見る者の心が奪われるほど感動的です。
これらは、これからどんな時代になっても変わることのない女子校ならではの魅力です。
●「新しい学び」は女子校向き!? 帝塚山学院の「創究講座」
冒頭にも近年の私学志向の高まりについてふれましたが、大学入試制度が変わることがきっかけになったことは間違いありません。そこに向けた私学の対応の早さに期待が集まり、その教育の中身が注目されるようになりました。保護者世代にはなかった「探究的な学び」に関心がよせられ、何年も前から準備がすすんでいることや、6年一貫教育の中でじっくりと取り組める点で私学が優位と捉えられています。
この「探究的な学び」が評価されているのが、関西圏の中学入試で最も多くの志願者が集まる女子校の帝塚山学院(大阪市住吉区)です。
探究学習の成果が、大学の推薦入試に結び付いています。京都大学の特色入試で農学部に合格した生徒は、この探究学習を通して学ぶ目的を見つけ、その意欲が自分を高めるきっかけとなり、入試でも高く評価されたようです。探求学習で求められるいくつかの要素に「主体的に学ぶ」ことと、「将来の進路選択にもつながる」ことがあります。まさにこれを体現した結果といえます。
この帝塚山学院の教育の柱ともいえるのが6年にわたる本格的探究学習です。「新たな時代を創り、社会に必要とされる女性として、つよく生き抜く力を養う」をスローガンにしたオリジナルの講座で、10年前から開講されています。どこよりも早く「探究的な学び」を重視し、取組み続けてきたことが、ここでの成果につながっています。
中学3年間で学ぶ「創究基礎」では、「見つける力」「調べる力」「まとめる力」「発表する力」の養成を目指し、14のスキルを身につけます。中1では、「声を出す」・「聞く力をつける」など、中2では、「プレゼンをする」・「自分新聞」などの作成、中3では、簡単な「ディベート」までと、段階的に新しいスタイルの学習で成果が上げられるように工夫されています。
高校から始まる本格的な「創究講座」では、「経営」「医療」「心理」等の9つの学問体系に分かれており、大学や企業から講師を招いて、生徒たち自身が、学年ごとに興味のある分野を選択して学びを深めています。「医療」を選択した生徒は自分の興味のある「再生医療の可能性」について、「経営」を選択した生徒は、自らの親戚が経営する「旅館の再生方法」というように、全員が自ら選択したテーマについて、自ら調べ、議論し、最終的には「卒業レポート」としてまとめたものを発表して卒業していきます。
帝塚山学院の探究学習に取り組む生徒の姿を見て、この学びはもしかすると女子校向きなのではないかと感じるようになりました。もちろん中学でそのための基礎(特に聞く力)をしっかりと学ばせていることが大きいのですが、女子が持つ「共感力」や「協働力」をうまく引き出し、全員が一人ひとりの探究活動を応援しているように映ります。こういった雰囲気を創りだせるのは女子校だからではないでしょうか。
日本でもこれから先、女性の雇用拡大は急速に進み、それによって社会が女性に求める期待や役割が変わってくると思われます。
女子校の魅力にふれながら、しなやかさをもった女子ならではのリーダーシップが求められる時代の到来を予感しています。そして私立の女子校が特長のある教育を未来へむけて進化させることで、さらに女子校教育への期待が高まっていくことを願っています。
PROFILE | 森永直樹(もりなが・なおき) |
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日能研関西 取締役。教室長、進学情報室室長、教室統括部長などを経て2017年より現職。生徒への指導や保護者へのアドバイスを行うほか、私学教育、中学受験に関する講演などでも活躍。 |