受験に役立つコラム

知っておきたい大学受験の新常識 第3回

2021年10月15日
執筆:毎日新聞社 教育事業室 中根正義氏

一般選抜入試で繰り上げ合格者増の怪
行きたい大学があれば、まずはチャレンジ!


 近年、年明けの一般選抜入試で繰り上げ合格者が増えていることをご存じでしょうか。
 「毎年、どんな状況になるのか全く読めない。辞退者が出て、定員が埋まられなければ、その分、入学金や授業料などの学費収入が減ることになります。10人辞退者が出れば、1,000万円以上の収入が吹っ飛んでしまう。非常に頭が痛い問題なんです」と、関西地方の中堅私立大の事務局長は苦しい胸の内を明かします。

 表を見てください。これは、今年春と昨年春の入試で、難関と言われる私立大が、どれだけ繰り上げ合格者を出したかを示したものです。今年は昨年にも増して、繰り上げ合格者が多かったことが分かります。上智大の今年の合格者をみると、全体の約45%が繰り上げ合格者でした。

難関私立大の繰り上げ合格者数

大学

2021年
合格者数
繰り上げ
合格者数
2020年
合格者数
繰り上げ
合格者数

早稲田大

14,532 1,580 14,513 1,015

慶應義塾大

9,327 1,283 8,590 643

上智大

6,776 3,025 5,476 1,750

明治大

24,732 非公表 22,304 非公表

青山学院大

9,884 非公表 8,262 非公表

立教大

14,659 3,056 12,152 2,000

中央大

19,829 非公表 17,026 非公表

法政大

20,033 1,998 18,591 1,585

関西大

18,815 2,213 16,189 1,190

関西学院大

12,444 2,234 9,644 1,312

同志社大

15,804 511 15,412 322

立命館大

31,943 非公表 30,962 非公表

(同志社大の繰り上げ合格は共通テスト利用除く。大学通信調べ)

 今年春、一般選抜で早稲田大に入学した受験生の保護者によると、併願していた大学から、繰り上げ合格の電話連絡が3月末にあったといいます。すでに早稲田大への入学金手続きをした後なので、その場で断ったのですが、その際に、「繰り上げ合格の連絡をして、どれ位、入学を決める人がいるのですか」と尋ねました。すると、担当者は苦笑いしながら、「20人に連絡して1人いるかいないかでしょうか」と答えたそうです。

 また、ある学校では、次のような受験生の例もありました。それは、2月に第3志望校に合格し、入学手続きを取ったところ、3月に入り不合格だった第2志望の大学から繰り上げ合格の連絡があり、入学手続きをやり直したそうです。すると、3月末になって第1志望の大学からの繰り上げ合格の通知が来たというのです。この受験生は第2志望の大学への断りを入れ、めでたく第1志望の大学へ進学したということです。

 ただし、ここで頭が痛いのは学費のことです。入学手続きの際、入学金と授業料を支払わなければなりません。入学を辞退すれば、授業料相当分は返金されますが、入学金は戻ってきません。つまり、この受験生の場合、第3志望と第2志望の大学の入学金は返金されなかったので、合計40万円が“捨て金”になってしまいました。

 では、なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。理由は次の3点が考えられます。

 まず、文部科学省による入学定員の厳格化が挙げられます。これは、大都市部の大学への学生集中を是正するとして、2016年度入試(16年4月入学)から行われてきたものです。収容定員8,000人以上の大規模大の場合、それまでは定員の1.2倍以上を入学させると補助金が打ち切られましたが、この年から段階的に厳しくなり、現在は1.1倍となっています。そのため、各大学は合格者を減らし、足りない分を繰り上げ合格で補っていくことにしたのです。

 2点目は、今年4月から始まった大学入学共通テストと関係があります。それまでの大学入試センター試験に代わるものとして導入されましたが、どんな内容の試験になるのか不安を覚えた受験生が、浪人を避けるために安全志向に走りました。特に年内入試である総合選抜型入試(旧AO入試)や学校推薦(旧推薦型入試)で早々に進学先を決めたため、一般選抜入試の志願者減につながり、結果として繰り上げ合格者増に影響したことも考えられます。

 前回の当連載で数字を挙げて示したように、国公立大、私立大を問わず、各大学とも年内入試による入学者を増やしています。そうしたことも、一般選抜入試よりも年内入試を目指す受験生が増えていることにもつながっています。

 そして、3点目は新型コロナウイルスの感染拡大による影響です。大都市圏での感染者が増える中、地方の受験生が地元の大学への志望を強めています。より地元志向が鮮明になったことに加え、コロナ禍で経済動向が不透明になるなか、受験生が併願校数も減らし、その影響を大都市部の大学が受けたのです。

 このように、年明けの一般選抜入試では、受験する人数が減ったのですから、少なくなったパイの取り合いになったのは当たり前のことです。それが大量の繰り上げ合格者になった理由です。

 では、来年以降の入試はどうなるのでしょう。まず、2018年以降、大学受験をする年代である18歳人口は、それまでおよそ10年間続いた約120万人から減少へと転じています。19年は117万人、20年116万人、21年114万人と減り続けています。これによって受験人口が減ることは確実です。しかも浪人生も減っているので「繰り上げ合格者はこれまでに以上に増えるのではないか」と予想する予備校関係者もいます。

 これを受験生の立場から考えると、競争相手が減った分、希望する大学に合格する可能性が増えていると考えられないでしょうか。行きたいと思う大学があるのなら、偏差値にとらわれず、積極的にチャレンジしてみてください。先ほど示した例にもあるように、繰り上げ合格で第一志望校に入学できるチャンスが以前にも増しているからです。その上で、実力相応校、滑り止めの大学を考えてみるようにしましょう。

 少子化が進む中で入試制度も多様化し、以前に比べると偏差値の有用性が薄れつつあります。それよりも自分が進学したいと思う大学、学んでみたいと思う学部を目指して勉強をし、納得した形で進学できるように準備をしてほしいと思います。

 

PROFILE 中根正義(なかね・まさよし)

 

千葉大学教育学部卒。1987年、毎日新聞社入社。週刊「サンデー毎日」編集次長(教育担当)、教育事業本部大学センター長などを経て、現在、教育事業室。サンデー毎日時代、同誌特別増刊「大学入試全記録」などの編集に携わった。現在、国立大や私立大の外部評価委員や非常勤講師なども務めている。

 

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