受験に役立つコラム

大学の統合・再編が始まった!

2021年12月8日
執筆:毎日新聞社 教育事業室 中根正義氏

大阪公立大の誕生で変わる関西の受験地図
〜知っておきたい大学受験の新常識 第4回〜

 2022年度入試(22年4月入学)における、関西最大の話題といえば、大阪府立大と大阪市立大の統合による大阪公立大の誕生ではないでしょうか。学部の入学定員2,853人と、国公立大では大阪大、東京大につぐ学生数全国3位の総合大が誕生します。公立大でこれまでトップだったのは東京都立大の1,570人ですから、いかに巨大な公立大が生まれるかが分かります。

統合により大阪公立大になる大阪市立大(同市住吉区にある杉本キャンパス)

大阪府立大(堺市中区にある中百舌鳥キャンパス)


 そして、そのインパクトの大きさは学生数だけではありません。1学域11学部があり、関西では唯一、医学部と獣医学部の両学部を有する総合大学となります。初代学長に就任予定の辰巳砂昌弘・大阪府立大学長は、毎日新聞のインタビューに「日本や世界の成長をけん引する大学を目指す」と力説した上で、「新型コロナウイルス禍で人や動物に共通の感染症が注目されるなか、医学部と獣医学部の医獣連携に力を入れたい。感染症対策には、情報学や社会科学などの知識も不可欠。統合により人文社会系、理工系、生物系に加え、情報学などの総合・新領域系までも網羅される。各分野の研究者が連携した研究も推進したい」と話しています。

◆入学定員(学部)の多い国公立大ベスト20

大学名(所在地)

入学定員(人)

大阪大(大阪) 3,255
東京大(東京) 3,063
大阪公立大(大阪) 2,853
京都大(京都) 2,823
九州大(福岡) 2,555
神戸大(兵庫) 2,530
北海道大(北海道) 2,485
東北大(宮城) 2,396
広島大(広島) 2,338
千葉大(千葉) 2,317
新潟大(新潟) 2,242
岡山大(岡山) 2,195
名古屋大(愛知) 2,107
筑波大(茨城) 2,102
信州大(長野) 1,978
静岡大(静岡) 1,970
山口大(山口) 1,917
鹿児島大(鹿児島) 1,905
富山大(富山) 1,770
愛媛大(愛媛) 1,770

 

 幅の広い教育や研究ができることは受験生には大きな魅力です。「統合効果が出てくれば、受験生の人気がこれまで以上に高まるだろう」と指摘する教育関係者は多く、巨大公立大の開学は、関西の受験地図を変えるほどのインパクトがあります。

 ちなみに、来年春の受験生にはどんな影響があるのでしょうか。予備校関係者の話を総合すると、統合により定員が大きい工学部の後期試験がなくなることで、国公立大を目指す理系志望者の併願パターンが変わりそうです。「京都大や大阪大、神戸大に加え、工学系の学部を持つ関西大や近畿大も巻き込む形で、併願パターンが変わるだろう」と予想されています。

 関西では来年春、奈良教育大と奈良女子大が運営法人を統合して奈良国立大学機構が発足するほか、同一法人で運営されていた兵庫医科大と兵庫医療大が統合され、兵庫医療大の薬、看護、リハビリテーション学部を加えた新しい兵庫医科大が誕生します。さらに、23年4月には天理医療大の天理大への法人合併も予定されています。

 実は、このような大学の統合の動きは他の地域でもあります。国立大では、22年春に小樽商科大と北見工業大、帯広畜産大が運営法人を統合して北海道国立大学機構が発足するほか、静岡大と浜松医科大も法人統合に向けた協議を進めています。また、私立大では慶応義塾大と東京歯科大が法人合併を目指し協議を始め、慶応大に歯学部が生まれる予定です。

 大学の再編・統合の動きは今に始まったことではありません。2000年以降の主な大学の再編・統合の動きを見ると、02年から07年にかけて、国立大で大きな動きがあったことが分かります。これは、01年6月に文科省がまとめた「大学(国立大学)の構造改革の方針」に基づき「国立大学の再編統合を大胆に進める」とされ、遠山敦子文科相(当時)が示したことから、「遠山プラン」と呼ばれました。当時は各県にある総合国立大と国立の医科大による統合が中心で、その後、公立大と私立大が続きました。

 そして現在、大学の再編・統合を巡る動きが再び活発化しています。第二幕ともいえ、その口火を切ったのが冒頭に紹介した大阪公立大と名古屋大と岐阜大による国立大学法人東海国立大学機構です。

 大阪私立大と大阪府立大の統合のきっかけは、大阪都構想を掲げた大阪市の橋下徹・元市長の公約から始まっています。府と市の「二重行政」解消の一環として進められてきたという経緯があります。

 一方の名古屋大と岐阜大による東海国立大学機構は、それぞれの大学は残しながら、総務、財務などの管理部門を統合し、合理化で生まれた予算や人員を教育・研究分野に重点配分しようというものです。従来、国立大学法人は一つの国立大しか運営できませんでしたが、19年に法律が改正され、一つの法人の下で複数の大学が運営できようになったのです。「アンブレラ(傘)方式」とも呼ばれるものです。小樽商科大と帯広畜産大、北見工業大の3大学や、奈良教育大と奈良女子大もこの方式によるものです。現在、静岡大と浜松医科大でも同方式による統合協議が進められています。また、国立大の山梨大と公立大の山梨県立大は今年春、文科大臣から国公私立の枠組みを超えて連携や機能分担を図る「大学等連携推進法人」に初めて認定されました。これにより、運営や教育・研究において一体的な行うことが可能になり、その動向が注目されています。

 では、なぜ今、このような大学の統合などの動きが活発化しているのでしょうか。それは、18歳人口減少と、世界的ともいえる大学間の競争激化が挙げられます。

 18歳人口は1992年の205万人をピークに減少し、2021年は約115万人と6割以下になりました。それが40年には80万人台前半まで減ることが確実な情勢となっています。さらに、世界に目を転じると、グローバル化、ICT化が進む中で、各国が高等教育に力を入れ始めており、効率的な経営により、教育・研究力を高めないと生き残れないという強い危機感があるからです。

 1990年代、都市銀行と呼ばれた大手銀行は13行ありました。それが経営統合や再編によって、現在は三菱UFJ、三井住友、みずほ、りそなの4行(グループ)に集約されています。それと同じように、高等教育機関である大学にも統合・再編の波が押し寄せているということが言えるのではないでしょうか。そして、この動きは偏差値だけではうかがい知ることができないものだけに、受験生もしっかり情報収集しておきましょう。

 

2000年以降の主な大学の統合や再編 

02年 国立 山梨大(山梨大・山梨医科大)、筑波大(筑波大・図書館情報大)
03年 国立 東京海洋大(東京商船大・東京水産大)、福井大(福井大・福井医科大)、神戸大(神戸大・神戸商船大)、島根大(島根大・島根医科大)、香川大(香川大・香川医科大)、高知大(高知大・高知医科大)、九州大(九州大・九州芸術工科大)、佐賀大(佐賀大・佐賀医科大)、大分大(大分大・大分医科大)、宮崎大(宮崎大・宮崎医科大)
04年 公立 兵庫県立大(神戸商科大・姫路工業大・兵庫県立看護大)
05年 国立 富山大(富山大・富山医科薬科大・高岡短大)
公立 首都大学東京(東京都立大・東京都立科学技術大・東京都立短大・東京都立保健科学大)、山梨県立大(山梨県立看護大・山梨県立女子短大)、大阪府立大(大阪府立大・大阪女子大・大阪府立看護大)、県立広島大(県立広島女子大・広島県立大・広島県立保健福祉大)
07年 国立 大阪大(大阪大・大阪外国語大)
08年 公立 長崎県立大(長崎県立大・県立長崎シーボルト大)
私立 慶応義塾大(慶応義塾大・共立薬科大)、東海大(東海大・九州東海大・北海道東海大)
09年 公立 愛知県立大(愛知県立大・愛知県立看護大)
私立 東京都市大(武蔵工業大・東横学園女子短大)、関西学院大(関西学院大・聖和大)
11年 私立 上智大(上智大・聖母大)
13年 私立 常葉大(常葉学園大・富士常葉大、浜松大)
20年
 
国立 東海国立大学機構(名古屋大・岐阜大)
私立 関西国際大(関西国際大・神戸山手大)
22年
 
 
国立
北海道国立大学機構(小樽商科大・帯広畜産大・北見工業大)、奈良国立大学機構(奈良教育大・奈良女子大)
公立 大阪公立大(大阪市立大・大阪府立大)
私立 兵庫医科大(兵庫医科大・兵庫医療大)

 

 

PROFILE 中根正義(なかね・まさよし)

 

千葉大学教育学部卒。1987年、毎日新聞社入社。週刊「サンデー毎日」編集次長(教育担当)、教育事業本部大学センター長などを経て、現在、教育事業室。サンデー毎日時代、同誌特別増刊「大学入試全記録」などの編集に携わった。現在、国立大や私立大の外部評価委員や非常勤講師なども務めている。

 

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