●わが子に合った学校選択とは
公立の中学校や高等学校と違い、私立中高一貫校には学校の数だけ校風があります。
キリスト教や仏教など宗教的情操を柱に教育を実践する私学も多く、男子校・女子校・共学校の別、あるいは1学年の編成クラス数による学校規模の違い、併設の大学を持っているかなど、多種多様な校風を持つのが私学の魅力です。多くの私学が全人教育を目ざしながらも、そのアプローチ方法・手段はそれぞれで、当然それらの違いが日々の生活や学校行事の中にも表れてきます。文化祭ひとつを例に挙げても、2、3校を回ればその違いは一目瞭然で、行事の意義として何を伝えたいのかが明確になるでしょう。
毎年、ゴールデンウィークに文化祭を行うのが、男子校の灘と女子校の親和、神戸海星女子学院です。
同じ女子校であってもカラーは全く異なります。親和の文化祭は生徒会「親友会」のメンバーが中心となって行われますが、同校は1学年に200名近くいて、多彩なイベントと舞台ステージ、展示発表といった盛りだくさんの内容となっているのが特徴です。一方の神戸海星は、親和の半数ほどの小規模校で、カトリック系女子校らしい手作り感あふれる、温かみのある文化祭となっています。コロナ禍においては制限もありますが、このあたりの雰囲気の違いによる好みは実際に足を運んで体感しないことにはなかなかわからないでしょう。
「将来をどのように生きていくか」、中高6年の間で人生設計を考えさせる私学ですが、進学校の生徒の多くは国公立大学への進学志向が強く、それに向けた独自のカリキュラムによって教科教育が行われます。先生方による徹底した学力サポート体制は、いまや私学の代名詞にもなっていますが、全国最難関と言われる私立中学校でも、豊かな教養を身につけるための、幅のある教育が実践されています。
一方、大学附属校は、もともと大らかな雰囲気の中で様々なアクティビティを行っています。異年齢交流の豊かさは、中高大一貫教育のなせるわざです。
いずれにせよ、わが子の性格を見極めた上で進学する学校を選ぶ必要があります。
●人間形成を掲げる私学、教育アプローチの違いが校風にあらわれる
創立以来、独自の理念に基づき素晴らしい教育環境を提供してきた私立中高一貫校。学校が位置するロケーションや施設・設備といったハード面はもちろん、カリキュラムや教授法などのソフト面においても、時代のニーズに応える様々な創意工夫が見られます。昨今はデジタルコンテンツを活用したICT教育や、科学的思考力や芸術的素養を育むSTEAM教育、あるいは語学・異文化理解を進めるグローバル教育で先進的な取り組みを行う学校も数多く見られます。
その成果は卒業生の活躍を見れば一目瞭然です。様々な学術分野の第一線で活躍する研究者や、芸術やスポーツ分野で活躍する方々も多いのが特長です。また、国内外を問わず、弱者のために心を砕き行動する方々もいます。「JICA(独立行政法人 国際協力機構)」や「国境なき医師団」のようなNGOあるいはNPO組織で活躍する卒業生の姿も多く見られます。
中学受験の良さは、子どもに合った学校を「選べる」ところにあります。公立校とは違い、私学の数だけ校風がありますから、子どもの性格や家庭の教育方針に合わせて主体的に学校選択を行うことができます。
中高一貫教育の大きなメリットは高校受験によって教育が分断されない点にあります。中学から高校へとむだなくカリキュラムが移行し、6年間で幅広く奥深い教育が可能となります。創設以来、リベラルアーツを標榜する神戸女学院や同志社など、多様な学びを提案する学校も高い人気を誇ります。
私学が公立校と大きく異なるのは、創立以来掲げられてきた校是や教育理念によって学校そのものが形成されている点でしょう。
たとえば、灘には「精力善用」「自他共栄」というスクールモットーがあります。これは、自らの能力を最大限に高め、社会の役に立つ人をめざそうとするものです。講道館柔道の祖である嘉納治五郎氏を顧問に招聘して始まった同校ならではの校是で、高いレベルでの学力向上と心身の鍛錬という文武両道の校風は、いまも健在です。
●ココロをデザインする私学の取り組み
これから先の人生をどのように生きるか―
これはけっして大人だけの話ではありません。今後、大きく社会情勢が変わることが予想される未来を生きることになるのは、子どもたちなのです。
キャリア教育も、大学進学や職業観という観点だけでなく、大学・大学院で何を研究し、自ら培った能力や経験をいかに社会に役立てるのか。そしてその先、一生涯を視野に入れたヴィジョンを子どもたち自身で考える姿勢が必要となります。
高等学校での進路指導というと、ふつうは大学や学部で学ぶことができる内容を確かめ、生徒それぞれの適性や能力に応じた大学選び、そしてその大学受験に向けた教科指導や論文指導などが主となります。
私立中高一貫校の場合は、それらがライフデザインに関する幅広い教育と体験活動によって裏打ちされています。自らを内省する場面はもちろん、先輩や卒業生による被災地や海外の貧困地域でのボランティア活動経験、あるいは職業体験を直接聞く機会が多いのも特長となっています。
また、中高大連携教育として大学の研究施設や、企業の研究機関などで実験・観察を行うチャンスもあります。
「これから先の人生をどのように生きるのか」という大きな命題を考えるためのベースとなるのが、物事の善悪や本質を見極めるための人間性を育む、情操教育です。様々な事象を客観的にとらえ、あるいは多面的にとらえることのできる豊かな感受性こそ、思春期に最も育まれるべきものではないでしょうか。
私学教育の中でよく語られる「本物体験」は、人間そのものがマルチメディアであるということを認識したうえで行われる、五感をフルに活用した感性教育そのものだと言えるでしょう。
●3つの「C」に注目! COMMUNICATION・COLLABORATION・CREATIVITY
日能研関西では、私学の先進的な取り組みの中から、特にこれから先の時代に重要と思われるものを3つの「C」に分類して、学校教育のナカミを紹介しています。
3つの「C」とは、「COMMUNICATION(コミュニケーション)」、「COLLABORATION(コラボレ-ション)」、「CREATIVITY(クリエイティビティ)」です。
〜 COMMUNICATION 〜
私学が、語学とりわけ英語教育に強い理由は、たんに大学入試に必要な知識を習得させるものとしてではなく、コミュニケーションツールとして表現力にも重点を置いて指導してきた成果です。早くから海外研修制度を持っていたり、海外姉妹校との交流を進めてきたりと積極的に取り組まれてきました。
英語教育の独自メソッドを持つ学校や、外国人教師がとてもアクティブな学校など、私学の優位性が最も発揮される分野です。
〜 COLLABORATION 〜
自分を見つめ、他者との関わりを大切にする私学では、異年齢交流をはじめ「繋がる」ことがキーワードの一つになっています。文化祭や体育祭のような名物行事だけでなく、合唱コンクールや図書館でのビブリオバトルに至るまで、多彩な行事で盛り上がるのが私学の風土と言えます。ラボステイや出張講義など、大学や企業の研究機関と行う連携教育も充実しています。
〜 CREATIVITY 〜
生涯教育を前提とした幅広い教養あふれる学びである「リベラルアーツ」を大切にしている学校があります。たんに大学入試問題の演習ばかりをさせるのではなく、教科教育の本質をとらえるため、アカデミックな校風が特長となっています。スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けている学校を中心に、STEAM教育や表現活動が充実しています。
日能研関西では、「教育環境」と3つの「C」のカテゴリー別で学校を紹介している「私立中学の魅力!2023」を新興出版社より発行・発売しております。ご興味のある方はぜひご一読ください。
(紀伊國屋書店などの大型書店(関西圏)またはアマゾン<https://www.amazon.co.jp>にてご購入いただけます)
PROFILE | 森永直樹(もりなが・なおき) |
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日能研関西 取締役。教室長、進学情報室室長、教室統括部長などを経て2017年より現職。生徒への指導や保護者へのアドバイスを行うほか、私学教育、中学受験に関する講演などでも活躍。 |